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1.
ある夏の日のことである。我が家の庭で、飼い猫のトラのしっぽを踏んでしまった。
私も驚いたが、トラも驚いたのだろう。しっぽを踏まれた瞬間、頭から肩にかけての毛を逆立たせた。
そして無言のまま、ものすごいスピードでその場を走り去った。
庭に出ていたトラに、リードは付いていなかった。これは私のせいではない。やったのは父だろう。
高齢の父は、時々トラを庭に出す。
猫を家の中だけで飼うという飼い方にいまだに馴染めないらしく、何度言ってもやめようとしない。
ここは街からちょっと離れているが、住宅地で人も少なくないし、マナーは守って欲しいのだが。
私はスニーカーを履いた足を持ち上げてみた。そこには、フサフサとした縞毛で覆われた、長くてしなやかな猫の尾が残されていた。
「ああ、なんてこと…」
私は息を飲んだ。
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