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夕立
【前編】
高校生の一年生の冬にできた私のカノジョは、雨が嫌いだ。
特に雷がなる、激しい雨が。
いわゆる夏の夕立。
なのに梅雨は好きらしい。
意味が分からない。
何度か直接、理由を聞いたことがあるけれど、いつもはぐらかされたりで全然教えてくれない。
私は、カノジョ(カレシなのかな?)なんだから教えてほしい。
くろちゃんの、ぜんぶを知りたい。
「みーつきちゃんっっっ♡」
「きゃぁっ?!」
もにゅ、と頭にやわらかい鈍器があたる。首のところには白くて柔らかい腕。二つの圧で地味に苦しい。噂をすればくろちゃんだ。
「もぉ、くろちゃんってば~。いきなり抱きつくのは危ないって~!!」
「ふふ、ごめんっ、みつきちゃん」
「というか、よく私の場所わかったね?」
「いやいや、みつきちゃん、放課後はココか家庭科室か、部室にしかいないもん」
くすくすと笑みをこぼす。
たしかに私は放課後のほとんどをココ、屋上で過ごす。部活には入ってはいるものの、活動日がそんなにない文化部だから暇なのだ。たまーにいく家庭科室は、くろちゃんの家庭科部があるときだけだ。
「ね、みつきちゃん。帰ろ。暑い中、委員会、待っててくれてありゃとっ」
にぱ、とくろちゃんの顔に花が咲く。ぐうかわいい。
「そだね!よぉし、帰ろ帰ろ!!」
バッグを持ち、コンクリートから腰を上げる。
スカートを、何をはらうでもなくぱたぱたやる。
じっとりとした、まとわりつく熱気が少しどこかへ行く。
「ふふ、みつきちゃん、だいぶ焼けたね」
「えー、やだぁ、気を付けてたのにぃ…」
二人で足早に階段を降り、昇降口までやってくる。
他愛もない話をしながらローファーを出していた時だった。
「おっ、黒田さんとみつきじゃーん!!」
「げぇっっ、暗夜ぁ...」
「幼馴染に向かってげぇとはなんだげぇとはっ」
こいつは本橋暗夜。私の幼馴染の男だ。一時期、気の迷いか何かで付き合っていた時期があるが、別れた今でもそれなりに仲良くやってる。ちなみに、私がこのめちゃくそ可愛いくろちゃんと付き合ってることは知らない。
「私たち、今から二人で帰るんだから邪魔しないでよねっ!」
「えへへ、そういうことなので。本橋君、またね」
「ちぇー、またなあ」
ふん、わかればいいのよ、わかれば。
再び二人で歩きはじめ、今日の授業やおしゃれなカフェ、最近聞いた音楽などについて盛り上がる。その間にも、私の不安はどんどん膨らむ。
ぽつり。
雨が頬を伝う。
やっぱり。不安は的中した。
「雨だ」
どんどん勢いを増す雨は私たちの制服をびちゃびちゃと気持ち悪い感触に変えていく。
「あ、く、くろちゃ…」
「…ごめん、ばいばい」
ダッ、とくろちゃんが駆け出していく。
「…あーあ」
まただ。
突然の夕立が降ると、くろちゃんは瞬く間に駆けだして帰ってしまう。
たとえ私が傘を持っていても、雨が急に降ったらすぐ帰ってしまう。
「…私まで、雨が嫌いになりそうだよ」
その日は折り畳み傘を使わずに、濡れながらひとりで帰った。
どこか遠くで雷が鳴いていた。
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