真実は水の中

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 ここでは長雨が続いている。ニュースからはしきりにシェルターへの避難を呼びかけるアナウンサーの声が聴こえる。このままでは、この星の半分くらい水浸しになってしまうんじゃないかって、冗談を言っているコメンテーター。冗談に聴こえないから、ほんと。 「まいっちゃうよね。この人はシェルターに避難しなくていいからってさ。こう毎日毎日、ずっと大声で叫ばれてもさ。」  ぼくの言葉に返事したのは、湿気をとるためにつけているエアコンの音と1週間近く降り続いている雨音だけだった。ぼくの顔をまばたきもせずにじっと見つめている彼女は、ずっと無言のままだ。たしか、雨が降りはじめてから、彼女とはずっと口を聞いていない。 「だいじょうぶ? ずっと黙りこくっちゃってさ。」  ぼくが語りかけても、彼女は相変わらず口をぴくりとも動かさない。まるでぼくに何か不満でもあるみたいに。もしかしたら、ぼくの言い方が気にくわないのかもしれない。
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