真実は水の中

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「ごめん。きみの気分を損ねちゃったのなら謝るよ。最近言い方が卑屈だったのかも。でもね、こんなに雨が続いていて、ぼくも気分が悪いんだ。」  彼女にはぼくがまるで、ぜんぶ雨のせいだ、と言い訳しているように聴こえたかもしれない。彼女は相変わらず、眉ひとつぴくりとも動かさずにいた。乾いたような表情とはうらはらに、彼女の瞳はうるんでいる。 「ねえひとみ、覚えているかい? ずっと前に、夕立が来て。ちょうどこんなくらいに雨が土砂降りでさ。バケツをひっくり返したような大雨でさ。ぼくらふたぼくらふたり、ずぶ濡れになりながら大声で泣きじゃくっていたよね。ずっと昔ぼくらがまだ幼かった頃、ぼくらのふるさとでのことだったね。」  彼女、ひとみはまだ黙りこくったままだけど、その視線はさっきよりもさらにしっとりと和らいだものになった気がした。  その瞳をじっと見つめていたら思わず、突拍子もない考えが浮かんだ。この星は、彼女の美しい眼球をもとに造ったんじゃないか。神様かなんかが彼女の瞳を見つめながら、一生懸命星を造っている情景がふと、ぼくのまぶたの裏に浮かんだ。  約10年間の調査の結果、この星は明らかに人工的に造られた痕跡があった。まだ中心部へは潜れていないが、ちょうど星のど真ん中には空気から水を生み出す装置があるんじゃないか、と予想している。水中都市のどこかに入り口があるはずなのだけれど。
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