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prologue 終わりのプレゼント
八月九日。
夏の日差しが刺すように痛い。
背中に汗が伝う。
持っていたタオルで顔の汗を拭きながら携帯を見る。
待ち合わせ時間の五分前。
当然のように先に来て彼女のことを待っている。
ただの幼馴染なのに、約束の時間に遅れることを僕自身が許さなかった。
基本、約束事をこなすのは当然だと思っているから約束の多い彼女には特に気を付けているのだろう。
いつもは彼女からの呼び出しが多いが、今日は僕が彼女を待っている。
僕の幼馴染の名前は都築千春。
夏生まれなのに名前は春ということでよくからかわれていたことを覚えている。
本人は楽しそうに過ごしていたけれど、気にしているのは僕だけは知っていた。
だから毎年、誕生日は必ずプレゼントをしていた。
機嫌取りではなくただ単純にからかわれる誕生日にしてほしくなかったから。
だから祝日で大学のない今日、僕は都築を待っている。
いつから都築と呼ぶようになっただろう。
小学生の頃だろうか。
いつだったかは覚えていないが、からかわれて呼び方を変えたことは覚えている。
今思えばからかいなんて慣れれば何とも思わなくなるのに僕だけ逃げたように呼び方を変えたことが子供だ。
都築は今でも僕、城谷楓太を昔の呼び方で呼び続けている。
きっともうすぐ来るだろう。
明るい笑顔で夏に負けない声を出して。
「ふーちゃん!」
心の声と一緒に声が聞こえる。
最近会ってなかったからか懐かしくさえ感じる。
振り返ればひまわりのような笑顔を見せる都築がいた。
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