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部屋に差し込む月明り。
僕はその下で時計を眺めた。
手に握り締めた懐中時計。
その針が動くまで月の下で思い出を振り返った。
千春の笑顔。
千春の切ない顔。
千春の涙。
千春の温もり。
一緒に感じた風。
僕らを照り付ける夏。
色と共に切なさを感じさせる秋。
輝いた海。
静かに見守る夕日。
全てが思い出になる。
一瞬一瞬がかけがえのない時間だった。
最後まで僕は放さない。
この大切な記憶を。想いを。
月が雲に隠れる。
部屋が暗闇になる。
それでも僕はその場に居続ける。
もう一度月が僕を照らすまで。
僕はもう片方の手に小さな箱を乗せた。
白いケースに入った宝物だ。
それがもう一度月の明かりに照らされた時、懐中時計の針は十二を指した。
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