プロローグへ

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扉が開く、光が包む。 そこに見えたのは笑顔で話す千春だった。 楽しそうに笑い、今は莉愛ちゃんの顔を見て嬉しそうにしている。 僕が完全に部屋に入ると千春はようやく僕に気づいた。 笑顔だった。 その顔がだんだんと変わっていく。 涙ならいいのに。それがうれし涙でいてほしい。 でも希望は希望で終わりにする。 目の前の千春は不思議そうな顔をしている。 僕の名を呼ぶことはない。 ゆっくり近づいても不思議そうな顔を曇らせるだけだった。 「千春、楓太君、だよ……」 光姉さんが気遣いで僕を紹介してくれる。 けれどそこに笑顔も涙もない。 ただ困惑する表情だけ。 本当に全て消えたんだ。 今までの思い出の箱は閉じられた。 けれど僕は覚悟していた。 だからもう泣くことも逃げ出すこともない。 ゆっくり近づいて千春の横に立つ。 千春はソファに座ったまま僕を眺めている。 その横に座って鞄から小さな箱を取り出し僕は微笑んだ。 約束を果たすために。愛の石を差し出して。 「会いに来ました。僕の初恋の人」
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