アマヤドリ

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アマヤドリ

ザァーッ! ッザッザァーッ! ザァーッ! 目の前の視界が大粒の雨で真っ白になる。まるで、濃い霧につつまれたように。 先が見えない……。 それは、わたし自身を象徴しているようだった。 「はぁ」 駆け込んだ喫茶店の軒下で、少しくたびれたスーツのジャケットにできた雨粒のドームを払い落としながら、短く溜息をつく。 傘は持っていた。持っていたけど、貸したのだ。小さな女の子に。女の子は妹の手をしっかり握り、困りはてていた。そんなのを見つけてしまったら、無視なんかできない。横にキッと結ばれた口には、姉の妹を守るんだという意思が滲み出ていた。 わたしは鞄から出した、長い間出番の来なかった水色の折りたたみ傘を女の子に渡した。 「はいっ。貸してあげる」 女の子は驚きと困惑の入り混じった複雑な表情を浮かべてわたしを見た。妹は姉越しに、恥ずかしそうに覗き込んでいる。 「いい……の?」 「うん。大丈夫。もう一本持ってるから」 満面の笑みで嘘をついた。 女の子はぱっと表情を明るくして、「ありがとう」と言って妹と顔を見合わせた。 「ありがとっ。ふふふ」 妹も、はにかみながら姉のまねをした。 二人は手を繋いで水色の傘に小さく収まった。 妹は何度も振り返り手をふる。わたしもそれに応えた。 「はぁ……」 さて、これからどうしようか。
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