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雨が止むまで、喫茶店で時間をつぶそうか。
店内を覗くと、席は全て埋まっているようだった。
ここでもやっぱり、わたしの座る席はないのか。わたしは、どこへ行っても、座る場所がないんだなと卑屈になる。
世界はわたしを必要としていない。そんな世界でわたしはどうすればいいんだろう。何をどうすることが正解なのだろう。
何度も、何度も、オブラートに包まれた剃刀の刃のような「お前はいらない」という企業からのメールで、文字通り、ズタズタになっていた。きっと、今日の所も同じだ。オブラートに鋭い刃を包んで送りつけてくる。それで、わたしは血まみれになる。
諦めて、雨に濡れながら帰ろうか。
まあ、それでもよかった。そんな気分だった。もう一度、空を見上げる。分厚い雲に隠れた意地悪な誰かが、まるでわたしに向かって矢を射っているようだった。
「はぁ………、どうしよう」
「三回目だね」
突然、すぐ隣から声がした。
「ひゃぁっ!!」
「ははは。驚かせちゃった?ごめんねぇ」
どこか懐かしい感じのする声の主をまじまじと見た。
着物に白い割烹着を着ている。手にはレトロな買い物籠を持っていた。わたしを見つめる瞳に「会ったことがある」気がした。あれ?誰だっけ?このおばあちゃん。
「傘、もう一本持ってるって嘘でしょ?」
雨粒のドームが染み込み始めたわたしの肩や髪を優しくハンカチで拭き始めた。いつもなら、知らない人にこんなことをされたら、怖くて走って逃げるところだけど、このおばあちゃんは何故か怖くなかった。むしろ、久しく人の温もりから遠ざかっていたわたしは心地よかった。
おばあちゃんがハンカチを動かすたびに甘い香りがする。
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