虹をさがして

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 おばあちゃんがまとも(・・・)じゃなくなったのは半年くらい前だった。何度もご飯を食べたがったり、一日中探し物をするようになったり、一緒に住む家族が「あれ?」と首を傾げる回数がどんどんと増えていった。 「おばあちゃんは病気でいろんなこと忘れやすくなっちゃったの。美沙も、パパやママと一緒にお手伝いしてあげようね」  おばあちゃんを病院に連れていったママが、帰ってきてからそう言った。でも、私だって「にんちしょう」という言葉くらい知っていた。そして、それが治らない病気だってことも。  おばあちゃんは、これからどんどんまとも(・・・)じゃなくなっていくんだ。大好きだったおばあちゃんを、ちょっとだけ「怖い」と思ってしまった。胸が、きゅうっと絞られたみたいに痛んだ。  それからすぐにママは仕事を辞めて、ずっと家にいるようになった。パパもいつもより早く帰ってくるようになった。なんとなく家の中がピリピリしていて、みんなが何でもないような顔をしながら、おばあちゃんを横目でチラチラ見るような生活が始まった。  けれど、私たちの予想よりおばあちゃんの症状は軽かったみたいで、私たちが心配したようなこと(ふらふらと家を出て行ってしまうとか、火事になりそうになるとか)は何も起こらなかった。  そのうちにママも、ちょっとだけなら家を空けるようになったし、パパもときどきお酒を飲んで帰ってくるようになった。  なんだ。ちっとも変わらないじゃん! と、私はスキップしたい気分だった。おばあちゃんはやっぱり私の大好きなおばあちゃんで、全然怖くなんかないんだ。
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