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「キヨちゃん。さっきの雨、すごかったねぇ。ザーッと降って、ピタッと止んで」
ポカンとしていると、おばあちゃんはもどかしそうに私のそばにやって来て、Tシャツの袖を引っ張った。
「ねえ、キヨちゃん。聞いてる?」
子どものような物言いに、私はハッとした。おばあちゃんは今、まともじゃないんだ。
「キヨちゃん。あたし、あんな雨、初めて見たよ」
「――夕立って言うんだよ」
「夕立」
「そう、夕立」
初めて知った言葉を馴染ませるように、ゆうだち、ゆうだち、と繰り返す口元はしわくちゃのおばあちゃんのものなのに、なんだか小さい子どもみたいだ。
「やっぱりキヨちゃんは物知りだね。いっつも本を読んでるもんね」
おばあちゃんがまともじゃないときは適当に話を合わせておきなさい、とママに言われていた。そうすればおばあちゃんも満足するし、そのうち元に戻るからって。
けれど、その日はそれでは済まなかった。
「キヨちゃん、お外に行こう」
おばあちゃんが、私の腕を引っ張り始めたのだ。おばあちゃんと二人でお留守番しているときは、絶対に外に出ちゃダメ、とママにキツく言われていた。
「お出掛けはもうちょっとしたらね」
なんとか誤魔化そうとしたけれど、おばあちゃんは聞いてくれない。ぐいぐいと力を込めて私の腕を引っ張って痛いくらいだ。
私だって、どこかに行きたい。でも、行けないのはおばあちゃんのせいじゃないか!
「キヨちゃん、キヨちゃん」
「もう! ダメだって言ってるでしょ!」
イライラをまとめてぶつけるように叫ぶと、おばあちゃんは驚いたように目を丸くした。私から手を離すと、口の中でもごもごと「ごめんなさい」と呟いた。
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