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しょんぼりと小さくなって元通り座ったおばあちゃんは、チラチラと横目で私の様子をうかがっている。また胸がきゅうっと痛んだ。
これはママの言い付けで、おばあちゃんがまともじゃないからなのに。私はちっとも悪くないのに、どうしてこんな思いをしてるんだろう。
みんな、私を置いて遠くへ行ってしまった。行ける場所も行きたい場所もたくさんあるのに、私は家に閉じ込められて、絵日記のページを嘘で埋めるような夏休みを過ごしている。
夕立が止まなければいいのに。
そうすれば、夕立は私にとってのおばあちゃんみたいに、みんなを閉じ込める檻になってくれる。だけど、夕立は短い雨。長く降り続く雨は、きっと夕立って呼ばないんだろうな。
「どうしてそんなに外に行きたいの?」
おばあちゃんは、さっきと同じように口の中でもごもごと呟いた。また私が怒るんじゃないかって心配してるみたい。
安心させるように、できるだけ優しく「どうして?」と、もう一度聞いた。
「……虹を探しに」
「虹?」
「夕立のあとには虹が出るんだって、キヨちゃんが教えてくれたでしょう? あたし、キヨちゃんと一緒に虹が見たいんだ」
――それにね、美沙。世界をじゃぶじゃぶ洗うような激しい夕立のあとには虹が出るんだ。そりゃあもう、神様のご褒美みたいにとびっきりキレイな虹がね。
思い出した。「夕立」という言葉を教えてくれたあと、おばあちゃんはそんなことを言っていたっけ。
神様からのご褒美みたいにキレイな虹。なんだか私も見たくなってきた。ママが帰ってくるまでに戻ってくればきっとバレない。どこへも行けないのを我慢しているんだから、ちょっとくらい言い付けを破ったっていいはずだ。
ママには通用しないであろう言い訳を思いついて、私は立ち上がった。
「じゃあ、行こう。虹を探しに」
おばあちゃんの顔がぱあっと明るくなった。
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