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私たちは手を繋ぎながら、歩くたびにじゅくじゅくと水音を立てる田んぼのあぜ道を歩いていた。
おばあちゃんの手は、しっとり、ひんやりしている。痩せているから皮が余ってたるんでいて、なんだか空気の抜けたゴム風船みたいな感触だ。
虹を探して家の近くを歩き回ってみたけれど、まだ見つけられなかった。急がないとママが帰って来ちゃう。焦る私の隣を歩くおばあちゃんは、のん気に歌なんか口ずさんでいる。私の知らない歌だった。
「そろそろ帰らないと、ママに叱られちゃう」
「キヨちゃんのお母さんは心配性だもんね」
おばあちゃんはまだまともじゃないみたいだ。
「でも、キヨちゃんと一緒にお出掛けできて嬉しい。いつもは寝てなくちゃいけないもんね」
おばあちゃんはまた歌を歌い始めた。何度も繰り返される歌に、いつの間にか私まで一緒になって口ずさんでしまう。夕立に濡れた草が、私の足首をくすぐって濡らした。サンダルの中に泥が入って、指の間がザラついてくる。
「ねえ、今日はもう見つからないかも――」
「あっ!」
おばあちゃんがまた突然叫んだから、私もまた飛び上がってしまう。
「キヨちゃん、見て! ほら、虹だよ」
おばあちゃんが指差す先には、さっきまでの暑さが集ったみたいに、ほんのりと赤く染まった空があるだけで、その他には何もなかった。
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