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虹なんてないよ、と言い掛けて、おばあちゃんがまともじゃないことを思い出した。
おばあちゃんがまともじゃないときは、話を合わせておきなさい。ママの言い付けを守って、私は「ホントだ」と答えた。
何度やってもうまく書けなかった「海」みたいに、自信のない声だった。
「夏には、世界を洗うみたいに夕立っていう雨が降って、そのあとにはキレイな虹が出る。キヨちゃんの言った通りだったね」
おばあちゃんは、まるで本当の虹を見ているみたいだった。どうして、私には見えないんだろう。私がまともだから?
「ねえ、どうして虹を探しに行きたかったの?」
「だってキヨちゃん、虹を見たことないって言ってたから」
おばあちゃんは何にもない空を見上げたまま答えた。
「嬉しいなぁ。あたしはずーっとキヨちゃんとお出掛けしたかったから」
夕立という言葉をおばあちゃんに、そして私に教えてくれた物知りのキヨちゃん。それなのに、虹を見たことがないキヨちゃん。
本物のキヨちゃんは、おばあちゃんと一緒に虹を見ることができたんだろうか。
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