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そのとき、どんどんと赤が濃くなっていく空が、ぶるりと震えた。びっくりして、ぎゅっと目を閉じる。
「キヨちゃん、どうしたの?」
おばあちゃんの声に、恐る恐るまぶたを開けると、さっきまで何もなかった空に虹が架かっていた。
虹は七色だっていうけれど、それじゃ全然足りないくらいたくさんの色が並んでいる。まるで、世界中の色をこの空に集めたみたいだ。
夕立に濡れてきらきら輝く世界にかかるその虹は、泣きたくなってしまうくらいにキレイだ。
この虹は、みんなが私を置いて行ってしまった遠くの場所でもなく、私が行きたかったいろんな場所でもなく、夕立が降ったあとの、おばあちゃんの隣で「キヨちゃん」になった私にしか見ることのできない虹だ。
「連れてきてくれてありがとう。私もすごく嬉しい」
そう言って、ゴム風船みたいなおばあちゃんの手を握った。今だけ、私もまともじゃなくていいや。
遠くから「ミサー!」と呼ぶ声が聞こえてきた。ママの声だ。
「ああ、お母さんが心配してるね。さあ美沙、おうちに帰ろうか」
いつの間にか、おばあちゃんはまともに戻っていた。私も「キヨちゃん」から「美沙」に戻る。
見上げた空にはもう、虹はなかった。
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