虹をさがして

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『きょうは、かぞくで海にいきました』  「海」という漢字を、さっきから何度も書き直していた。「さんずい」と「毎」のバランスが悪い。夏休みの漢字ドリルでたくさん練習したのに。  書いては消して、を繰り返しているせいで、真っ白な絵日記のページが少しずつ黒ずんでいく。  何度やってもうまくいかないのは、きっと後ろめたいからだ。夏休みにあったことを記録しましょうという宿題なのに、私は、なかったことを書こうとしているから。 「あーあ」  鉛筆を放り投げて、テーブルの上に顔を伏せると、エアコンで冷たくなったビニールのテーブルクロスがべたりと頬に貼り付いた。 「美沙、お行儀が悪いよ」  私の隣でじっとテレビを見ていたおばあちゃんが、突然しゃべった。びっくりして顔を上げたけれど、おばあちゃんは置物みたいに、膝の上で組んだ指のかたちも、背中のカーブも、さっきとまったく変わっていない。 「おばあちゃん?」  とろんとした目。寝ているような、起きているような不思議な目で、再放送のドラマをじっと見つめている。  ママ、早く帰ってこないかな。  時計を見上げた瞬間、窓の外がピカッと光った。 「わっ」  ドォンとお腹に響くような音がしたかと思うと、ぽつり、ぽつりと弾ける音がして、エアコンの風が急に冷たくなった。  さっきまで晴れていたはずの空が、暗い灰色に曇っている。のそりと立ち上がったおばあちゃんは、窓際に行くと「あめ」と呟いた。
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