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僕の家は二階建てで、ベランダからは空がよく見える。今日は朝から夜まで快晴だった。まんまるの月の周囲を取り囲むように、いくつもの星がキラキラと瞬いている。お星さまも、カール叔父さんと仲間たちを祝福しているようだった。めでたい日に雨だったら、昼のお迎えもできなかったし、みんながっかりしたことだろう。
「そうか、ウォルトは兵士になりたいのか」
彼の手には、まだグラスが握られたままになっていた。よっぽどお酒が飲みたかったのかな、と僕は思う。戦場では、お酒を飲む暇なんてきっとなかっただろうから、と。
「何で兵士になりたいんだ?ウォルトは勉強も結構できるし、ちょっと前までは作家を目指すと言ってなかったか」
「そう、なんだけど。新聞とかでさ、叔父さんの活躍聴いて……僕も文字を書いてる場合じゃないなって。だって、兵隊さんが一番、みんなのことを守れるでしょ?」
「守れる、か」
「そうだよ。それに、今回のサックル共和国との戦争は終わったけど、王様は他の国とも戦争になるかもしれないって言ってたみたいだし。そうなったら、ますます軍隊の出番は増えると思うんだ。僕も、叔父さんみたいなヒーローになりたいよ!」
「……そうか」
この時。僕の脳内にあった叔父さんの返事は、“頑張れよ”という応援か、あるいは“お前みたいなひよっこにはまだまだ難しいだろうな!”という冗談めかした言葉だった。だから。
「やめとけ」
にべもなく。笑顔もなく。ただストレートに拒否されたのはあまりにも想定外だったのである。
「俺はヒーローなんかじゃない。みんなに讃えられるような存在でもない。……ウォルト、お前は俺と違って頭がいい、文才もある。兵士なんかなるもんじゃない。お前は、お前にあった別の道を探すべきだ」
「な、何でさ!僕がまだ子どもだからって……!」
「お前が大人でも、俺よりもマッチョでも、同じことを言ってるよ。……今の俺ならな」
ベランダの手すりに体を預け、叔父さんは僕の方を見ることなくただじっと手元のグラスを睨んでいた。赤くなった横顔には、今まで見たこともないような色が滲んでいる。
叔父さんは、戦争に勝ったことが嬉しくないのだろうか。みんなを守ったことが誇らしくないのだろうか。――いや、そんなはずがない。だって、彼もまた戦ってみんなを守るんだと豪語して軍に志願した人間だと僕は知っているからだ。彼が入隊した時僕はもっと幼かったが、それでも記憶に残っている。そう。
みんなのヒーローになってやるぞ!と。僕達にそう言って入隊試験に向かったのは、他でもない彼であったはずなのに。
「じゃあ、なんで」
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