2人が本棚に入れています
本棚に追加
僕の疑問は、実に尤もなものであるはずだった。叔父さんはグラスの中の赤い液体を揺らしながら、さっきな、と話し始める。
「お前の父さんと話していた会話は聴いてたろ。俺が、サックル共和国の国土に上陸した時のこと。雨風凌げる場所が手に入って良かった、みたいなこと俺は言ったよな」
「……?うん、言ってた、けど」
「サックル共和国は、都市部以外はほぼジャングルで、あちこち小さな村や町が点在しているような国だ。正直、戦車も海岸線沿い以外ではほとんど役に立たなくて、ほぼ歩兵同士のゲリラ戦になった。なんせ、戦車が通れるほどの道幅がなかったからな。……現地でそのまま歩兵が戦ったら、その環境に慣れてない人間が圧倒的に不利。地の利ってのは無視できないものなんだ。……にも拘らず、俺達が有利に戦局を運べたのは何故か?俺達が優秀な部隊だったから、じゃないんだぜ」
その刹那。彼の眼がどろりと濁るのを、僕ははっきりと見た。
「殺したからだ」
星空に似つかわしくない、物騒な言葉が響いた。
「水や食糧が確保できる場所には、必ず小さな村や町がある。サックル共和国の“人が住んでる場所”を、オベロン王国側は正確に把握してた。……で、上陸してすぐやった行動は一つ。町から町へ、住んでいた住民を皆殺しにしていくことだ。老若男女問わず。逃げ惑う小さな子供や赤ん坊、寝たきりの老人も関係なく俺達は撃ち殺して、町をまるまる一つ乗っ取った。町の食料も水源も、全部。そうして拠点にすることで、俺達は安全に侵攻することができたんだ」
それを繰り返したんだよ、と彼は嘲るように笑った。
「いい具合に村や町が点在してたからなあ。一つ町を壊滅させて乗っ取って休み、さらに進んで次の町を壊滅しては乗っ取って進み……それを俺の部隊も、他の部隊も繰り返した。あっちの政府要人が都市部に立て籠もって殆ど戦力が田舎町に回ってなかったこと、航空戦力が壊滅してて空爆される心配がないのを知ってたからだな」
「な、なんで」
「ん?」
「お、オベロン王国の王様は!サックル共和国の悪い政府を倒して、サックル共和国の人々を救うために戦争をしたって言ってたじゃんか!そ、そんな、関係ない人をたくさん殺したなんてニュース一言も……っ」
嘘だ、と言いたかった。ニュースで報道されていた内容と全然違う。上陸してすぐ、向こうの軍隊が出迎えてきてそいつらを倒しながら都市部に侵攻したと聞いていた。不足しがちな物資は、その兵隊たちから奪ったと。敵軍の兵士達も無抵抗な者達は捕虜にしたが、関係ない一般市民には一切危害を加えなかった、と。
それがなぜ。
何故、小さな子どもや老人まで殺しただなんて話になるのか。
最初のコメントを投稿しよう!