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凡人の凱旋
勇者の凱旋だ、と町の外で叫ぶ声がした。ぼんやりと机に向かっていた僕は慌てて立ち上がる。その際、うっかり読んでいた本を落とした上、椅子に躓いて派手に転んでしまった。
「ちょっと、ウォルト!もう少し落ち着きなさい!それと本は元に戻す!」
「ご、ごめんなさいっ!」
母に呆れられたが、それでも強く叱るつもりもないようだった。僕が慌てるのも無理ないと知っているからだろう。僕は上着だけを羽織って、家の外に飛び出した。見ればすでに、沿道には町の人がずらりと並んで待機しているではないか。みんな、帰ってきた“勇者”たちを出迎えたくてたまらないのだろう。
「ウォルト、こっち!ここからなら見られるわ!」
「ベッキー!」
大人達が立ちはだかってしまっていては、到底前を見ることなど叶わない。困っていると、店の前に積まれた木箱の上で手を振っている幼馴染の姿があった。ベッキーは今日は青いマフラーに茶色のワンピース姿らしい。なかなか似合ってるな、と心の中で呟いた。
「ありがとベッキー。人ゴミが抜けられなくて困ってたんだ。もう、大人達も酷いよな。もう少ししゃがんでくれればいいのにさ」
僕が箱に登りながらぶつぶつと呟くと、仕方ないわよ、とベッキーは肩をすくめた。
「だってみんな、兵隊さんたちが無事に帰ってくるのを待ってたんだもの。凄いわよね、まさに一騎当千の活躍ぶりだったっていうじゃない。向こうの国は壊滅したのに、こちらの死者はごく数人。しかもこの町の出身の人は全員生き残ったっていうから……本当に強かったのよ」
彼女は誇らしげに、まだ貧弱な胸を張って見せたのだった。
「さすがよね!カール小隊は無敵の部隊よ!」
なんだか、そう言われると自分が褒められたように嬉しくなってくる。カール小隊の部隊長、カール・マイソンは僕の叔父さんだ。金髪に屈強な肉体、無敵の狙撃手。平民の出でありながら王様に認められ、部隊長にまで上り詰めた屈指の叩き上げ。彼はまさに、僕の誇りと言っても差支えない人物だった。
我がオベロン王国が、サックル共和国と戦争状態になったのは三年前のこと。最初は海と陸で小競り合いをしていたのが、一気にこちらの優勢に傾いたのが二年前。そして去年には、カール叔父さんの小隊を含め、いくつもの小隊が島国であるサックル共和国に上陸することに成功したのだった。一年にも及ぶ陸上戦。叔父さんの部隊は非常に優秀だった。サックル国軍の部隊を次々撃破し、ついにあちらの国に白旗を挙げさせることに成功したのである。
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