いらっしゃい。ゆっくりしていってね。

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いらっしゃい。ゆっくりしていってね。

 ――あ、いらっしゃい。途中で雨に降られたんでしょ? お好きな席にどうぞ。……とは言っても、カウンター席しかないけどね。  しかし、お客さんが来てくれるとは思わなかったよ。僕の店、夕立のときにしか開いてないから。しかも開店したばっかりだし。だから君が、この店の初客。いやぁ、嬉しいね! 雨が止むまでの間、ゆっくりしていってね!  ……ああ、何で夕立のときにしか開けないのかって? それは簡単。夕立のときは、妻が怒ってるんだよ。下手にオリュンポスにいると、バッタリと遭遇しちゃうかもしれないから、こうやって地上に降りてるってわけ。……そうそう、妻も子どももいるよ。えっ、そんなに驚くことかい? 別に普通だと思うけど。  あ、そうそう。この店、メニューはないんだ。僕が出したいものを出すから、そのつもりで。客も何人来るか分からないしね。えーっと、今日はね……。おっ、コーヒーとケーキがあるよ。せっかくだから、セットで出してあげよう。ちょっと待っててね。  ……あ、この店内曲? 中々いいでしょ。この店のために、息子に作らせたんだよね。ほら、アポロンって知ってるでしょ? 彼だよ彼。  ――えっ!? まさか君、僕がゼウスだって分かってなかったの!? こんなに最高神オーラ出してるのに!? ……普通の兄ちゃんだと思ってた? あ、ああそう……。まぁいいけどさ……。  それはそうと、コーヒー淹れ終わったよ。あとケーキね、胡桃とバナナのケーキ。ふふん、結構美味しそうだろ? どうぞ、味わって食べてね。その内、天気も良くなると思うから。  ……美味しい? ふふっ、ありがとう。そんなに喜んでもらえるなら、いっそ宅配サービスでも始めようかな。ヘルメスを使えば、どこでもスイスイ配達できるだろうし……。うんうん、中々の名案じゃないか! 後日、改めて検討しよーっと。  さて、外の様子はどうかな……。あ、止んでるじゃないか。それに見て、虹も出てるよ。さすが、イリスは気が利くなぁ。僕が地上にいることを知って、わざわざ動いてくれたんだね。  そしたら、もう店は閉店だね。君も来てくれてありがとう。……ああ、お金はいらないよ。貰ったって、使わないし。その代わり……、君可愛いからさ、ちょっと連絡先教えてくれない?
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