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 川のせせらぎを聞くと心が安らぐ。雨や波の音もそうだが、水は人の感情と親和性が高いと思う。だから、橋の下の河川敷は僕の憩いの場所だ。  今日も猫はいた。誰が置いたのか分からない、寝床にちょうどいい段ボールの中にブランケットが敷かれていて、そこに身体を丸めていた。 「野良猫とは思えないな。人懐っこい」  ゴロゴロと喉を鳴らしながら、蔦ヶ谷の差し出した手に頭を擦り付けている。 「初対面の相手にはあまり触らせなかったんだけどね。最近は妙に人懐こくなったんだよ」 「へぇ。そういうこともあるんだな。まぁ、ここで一人でいたら寂しくもなるよな」  蔦ヶ谷は座っていた場所を横にずらした。僕もしゃがんで猫の頬から撫でた  頻繁に様子を見に来るが、久しく触っていなかった。猫の身体全体を確かめるように撫でた。肉がすっかり落ちてしまってゴツゴツとした骨の感触が伝わってくる。  でも……与えた温もりがまだ残っている。 「粟井は飼おうとは思わないのか?」 「うちの母さんは猫嫌いだから」  母親には小さい者に対する優しさがない。自分が小さいのが原因かもしれないが、母親のそうした考えにあまり共感ができない。 「ふぅん。じゃあ、俺が飼おうかな」 「……そんなに気に入ったの?」 「おう。こんなに人懐っこかったらかわいいよ」 「そんな猫じゃなかったんだけどな」  近隣の人々に世話されながらとはいっても、野良生活を10年以上やってきた猫がいまさら家猫になれるんだろうか。  それに、高校生である蔦ヶ谷がきちんと動物の世話をできるとは思えない。 「世話するのは親なんだろうから、先に聞いたほうがいいよ」 「まぁそうだな。準備する物も色々あるだろうし、すぐに家に連れて帰るわけには行かないよな」  明日もここに来るということで話がまとまり、立ち上がって帰ろうとした時、猫と目が合った。  もしさっきの会話を、この猫が理解できていたなら蔦ヶ谷の顔を見上げていたのだろうか。その目から視線を逸らすように、僕は空を見上げた。  雲はどこにもかかっていなかった。
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