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『4月10日午後6時56分 駅前市立中央図書館前にて、郵便ポスト爆発。
重軽傷者28名。死者1名。
通りすがりの警察官の起点により野次馬や二次被害には及ばず。警察は容疑者3名の身柄を確保。3人とも容疑を否定。うち1人は未成年。現在捜査一課にて捜査本部を立ち上げ捜査中。』
この、未成年の容疑者というのが松馬星歌であった。
午後8時ちょうど。花の家の黒電話が鳴った。花は平然を装い電話を手に取る。
別に、この家には今、自分しかいない。平然を装う必要などない。そんなことは僕もわかっている。それでも、嫌な予感がする時こそ、いつも通りを演じるのが昔からの癖だ。
「はい、兄塚です」
自分の癖を自覚してもなお直せないことに内心苦笑しながら、やっぱり平然と電話にでる。
「私だ。松馬星歌の身柄を爆破・殺人事件の容疑者として保護している。この状況でわざわざお前に連絡したら意味、わかるな?すぐに来い。私にも自由に動ける時間はあまりない。切るぞ」
葉からの電話だった。
あたりは騒がしそうであったのにもかかわらず、一気に、しかも少し小声で電話してきた。つまり、人目を盗んで電話をした、ということだろう。
「はぁー」
と浅い呼吸を一つ。これもまた花の癖であった。
だとしたら……星歌のことはまだあと少しは葉がどうにかしてくれるだろうか。
そう考えた花は、しっかり身の回りを整え、最後に黒いトレンチコートを羽織ってから家の鍵を閉めた。
タクシーを捕まえ、数分後に花は葉の努める警察署に到着した。正面の玄関からではなく、裏口の古臭い、電話型のインターホンを手に取る。後で手を消毒しよう、なんて思いながら。
「夜分遅くに申し訳ありません。古川です。 えぇ。…はい。妻がお世話になっております。ところで、今日は急に仕事が入ったとかで先ほど出勤したのですが、彼女、何も食べていませんでしたから…えぇ。そうなんです。夜食を届けに。お忙しいかと思うのですが妻を呼び出してもらうことは可能でしょうか?……あはは。バレちゃいましたか?やはり女性の目は誤魔化せませんね。でも、少ししかやっぱり会えないのは寂しくて…お願いします。……ははは。そのように言っていただけるなんて、嬉しい限りです。あなたの旦那さんはきっと幸せでしょうね。…え?まだ未婚?!世の中の男性には見る目がないんですね。では、妻をよろしくお願いします。」
電話の向こうが若めの女性で助かった。頑固親父の相手をする時間はない。少々余計な話もされたが、許容範囲だろう。
5分後、同じ裏口から葉が出てきた。
「お前、またうちの部下を誑かしただろ。さらには旦那ヅラか?まぁ(今はそんなことどうでも)いい。入れ」
こうして、難なく花は‘よそ行きな笑顔’を貼り付けたまま警察署の中に入る。
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