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遭遇
(えっ)
部屋に入り、華子は珍しく驚いた。
シングルベッドと小さなテーブルに一脚の椅子。
屋根裏というだけあり壁は直角ではない。
三角の狭くて暗い殺風景な部屋。
ただ、出窓だけはとても大きい。
ちょっとしたベンチみたいになっていて、町が一望出来る。
その場所が華子のお気に入りだった。
そのお気に入りの場所に、見知らぬ誰かが脚を投げ出してもたれかかっている。
それだけでも驚くというのに、あろうことかその見知らぬ誰かは着物姿なのだ。
長い黒髪。
雷の閃光で窓に顔が映る。
色白で女かと思った。
しかし、着物はグレーで下駄も男物だ。
「誰?」
思わず呟いてしまう。
「ん?」
華子の声に気づき、見知らぬ人物は華子を見た。
目がバッチリ合ってしまった。
やはり良く見ると男だ。
華子と同年代に見えるが、どこか落ち着いた雰囲気はもっと年上の様にも感じる。
「おや。珍しいお客様だ」
(いや、ここ私の部屋なんだけど)
日本語だった。
「おいで」
男は自分の横をトントンと叩く。
「心配しないで。何もしないよ」
そう言ってふんわりと笑った。
つい今しがた同年代かもっと年上なのか、と曖昧な印象を受けたばかりだというのに、その笑顔はもっと年下の少年の様でもある。
(訳がわからない)
この状況では一旦は従った方が良いと華子は判断した。
静かに男の隣へと腰かける。
「賢い子だ。僕の言葉がわかるの?」
(そりゃ私も日本人だからね)
男は嬉しそうに華子を見つめ、それから視線を窓の外に戻した。
外はもう暗くなっている。
雨は小降りに変わっていた。
じきに止むだろう。
(どうしよ。無理に逃げると捕まえられるかもしれないし)
「退屈だ」
華子に話しかけているのか、一人言なのか、ため息なのか、生気のない声だ。
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