遭遇

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「出かけるのも億劫だ」 窓に映る男の表情にはどこか見覚えがある。 でも、華子はこの男を知らない。 「世界はさ、広いくせに窮屈だ」 (あ。そっか) 華子は気づいた。 この表情は鏡の中の自分と同じである。 朝の洗顔の時、就寝前の歯磨きの時。 毎日見る、自分とそっくりなのだ。 「もうほとんど見尽くした。懐かしい物や美しい物。面白そうな人達も。でもみんな飽きちゃった。だけどじっとしてらんなくて。どうして色んな場所に忍び込むのか、自分でもわからなくなっちゃって。意味はないけど行かなきゃ、って感じ」 (こいつ、もしかして……) 「ああ、でも。こうやって久しぶりに誰かと喋って……。うん、わかったかも。君のおかげだ」 男は寂しそうに笑みをたたえている。 それに『君のおかげだ』と言っておきながら、ちっとも華子の方を向きはしなかった。 「じゃあ、やっぱり今夜も頑張って出かけるよ。そうだな……図書館が良いかな……。うん。古い本には載ってるかもしれない。死ぬ方法が」 華子はヒョイと窓から床へ飛び下り、バスルームへと向かう。 開きっ放しのドアから中に入り、カゴの中のバスタオルに潜り込んだ。 それからタオルを裸の体に巻きつけ、男の元へ戻る。 「あんたが雨上がりの怪人?」 「へっ?」 男は仁王立ちの華子を見た。 目をぱちくりさせ、呆然としている。 少し間があって、それからようやく男は訊いた。 「君、誰?」
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