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お腹がいっぱいになり、ハチさんの家の近くの公園のベンチで休んでいると、風が吹いた。生ぬるい風だ。ボクは毛づくろいをやめ、体を起こした。耳を立て、音に意識を集中する。雨がくる。どこに身をかくそうか。首を回して、雨をしのげそうな場所を探す。
すべり台の下。横から風が吹きこんできそうだ。
ブランコの下。論外。
土管があれば一番いいけど、ここにはない。
考えているうちに、冷たいものが背中に当たり、ボクは体をふるわせた。空から雨つぶが落ちてくる。
とりあえずベンチの下にうずくまる。木でできたベンチはすきまがあいていて、水滴がしたたり落ちてくる。地面ではねかえった雨が、ボクの足をぬらした。風が吹き、ぬれたボクのからだから、熱をうばっていった。世界は、地面に当たる雨の音にうめつくされた。
寒い。ボクはからだを小さくして、目を閉じる。
母さんがいなくなったのは、こんな日だった。数日前の記憶が、あざやかによみがえる。
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