名前はいらない

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 ハチさんから聞いた情報によると、ヤマモトはサンジューダイで、ツマがいるらしい。このおうちは、「ユメのマイホーム」なんだとか(ボクにはすべて呪文のように聞こえたのだが、ハチさんになめられないように、わかったフリをしている)。 「ハチがなにかしゃべってると思ったら。ねこ、また来たのか」  ボクは「にゃー」と鳴いてみせた。こうすると、ニンゲンがごはんをくれることを知っているからだ。 「ちょっと待っててな」  ヤマモトが見えなくなった。きっと、ごはんを持ってきてくれるんだろう。  ハチさんが鼻で笑った。 「なんだよ」 「かわいこぶっちゃって。でも、カイヌシにとって、オレは『ハチ』だが、きみはただの『ねこ』なのさ」  ボクはムッとして、耳をぴんと立てて言い返した。 「なにが言いたいんだよ」 「べつに」  ハチさんは、前足を突き出し、体を伸ばしはじめた。「ま、オレときみは生き方がちがうってことかな」  くるりとボクに背を向けて、しっぽをゆらしながら、部屋の中に入っていく。 「あれ? ハチ、もう昼寝はいいのか?」  ヤマモトの声が聞こえる。 「にゃおん」  ハチさんが鳴く。  なんだよ、ハチさんだってかわいこぶってるじゃないか。  言い返してやりたかったけど、ハチさんは、ボクの声が届かない場所に行ってしまっていた。
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