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「ねこ、ごはんだよ」
ヤマモトが、腕をめいっぱいのばして、真っ白な皿をボクの目の前に置いてくれる。
いつものカリカリだった。きっと、ハチさんが食べているものと同じものだろう。ボクは必死さを装いながら食べた。たまにカリカリを地面に落としたりして。こうすればニンゲンが喜ぶってこと、知ってるんだ。
「ねこはいつも美味しそうに食べるよなぁ」
ヤマモトはいつも、目を細めてボクのことを遠くから見ている。勝手に体をさわろうとしてくるニンゲンも多いのに、ヤマモトはぜったいにそういうことはしなかった。
だからボクは、いつも安心してごはんを食べることができる。
カリカリを最後の一つぶまで食べおわって、ボクが舌で鼻と口をきれいにしていると、ヤマモトが小さい声で言った。
「ねこ。うちのねこになってもいいんだぞ?」
ボクは、ヤマモトの言葉を聞かなかったことにした。
だって、ボクは、名前のない自由なねこなんだ。
ごちそうさまの気持ちをこめて、ヤマモトを見てから、ボクはぴょいんとブロックべいに飛び乗った。
てくてく歩く。どこまでも歩く。ボクはねこ。名前はいらない。自由気ままな、のらねこさ。
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