名前はいらない

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 声が聞こえた。ヤマモトの声だ。ついに幻聴まで聞こえるようになったか、とあきれる。 「ねこ! いるの? いたら返事して」  ねこ、ってボクのことなのだろうか。ボクを呼んでいるのだろうか。いや、ボクには名前がないんだから、思い上がっちゃだめだ。  寒い。ふるえが止まらない。  ボクは、しんじゃうのかな。  とつぜん頭の中にうかんだ考えに、ボクはこわくなった。  ――ひとりはいやだ。 「たすけて。こわい。さむい」 「ねこ!? どこにいるんだ!」  ヤマモトの大きな声が聞こえる。ボクはからだがふるえて、返事ができない。 「やっと見つけた」  ヤマモトの声が耳元で聞こえたと思ったら、ふわふわのなにかに包まれて、ボクのからだは宙にういた。  空をとんだ母さんを思い出して、ボクはよっつの足を必死に動かした。ツメがひっかかって、ヤマモトの手から血がながれた。 「急に触られてこわいよね。ごめんね。ちょっと我慢してね」  ヤマモトが申し訳なさそうに言った。 「わがままだって、自分勝手だってわかってる。でも、一緒に来てほしいんだ。きみのつらそうな姿は見たくもないし、想像したくもない」
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