名前はいらない

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「びしょぬれじゃない! どうしたの?」  家の中に入ったら、オンナノヒトの声がした。このひとが「ツマ」なのだろうか。ヤマモトは、ボクをぎゅっと抱えこむと、くしゃみをしてから答える。 「こいつが呼んでた気がしたから。迎えにいってた」 「猫ちゃん? とりあえずお風呂に入ってきて。この子は預かっとくから」  オンナノヒトが、ボクの方に手をのばしてくる。さわぎを聞きつけたハチさんが、奥から出てきた。 「おやおや。きみはいつもの子じゃないか」  ボクはいつものように、ハチさんにあいさつしたかったけど、口を開く元気もなかった。おとなしくオンナノヒトに抱かれる。 「うわ、この子もびしょびしょね。タオル変えてあげないと」  ヤマモトが全身から水をしたたらせながら歩く音が、やけに大きく聞こえた。
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