汗と共に降る

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 俺は昔から夏が大っ嫌いだ。  汗っかき体質ということもあり、この季節は四六時中片手にタオルを握りしめている。  学校から最寄りの駅まで歩いている今も、止まることのない汗にイライラする。  なぜこうも鬱陶しい季節が存在するのだろうか。寒さは厚着をすれば解決できるが、暑さからはどうしても逃れられない。裸になっても暑いものは暑いし、たとえ裸になって解決できたとしても、到底外では活動できない。  夏という季節とその暑さの理不尽さにフラストレーションがどんどんと溜まっていく。  加えて今日感じる不快感は何故かいつも以上に強い。昨日や一昨日と比べて特別暑いわけでもないのに、かく汗の量がやたらと多い気がする。  タオルで拭いても拭いても消えない不快感から、ついに制服を脱ぎ始めてしまう。  しかし、こんな道のど真ん中で服を脱ぎ始めたらただの変質者になってしまう。  そう頭では理解しているはずなのに、ベルトを外し、ズボンのファスナーを下げる手が止まらない。  加えて不思議なことに、こんなことをしているのに誰も悲鳴を上げることも、注意してくることもない。  それ以前に、自分の周りに人がいるような感覚がしない。いつもの学校からの帰り道のはずなのに、ここがどこなのかわからない。  不思議なこの状況に混乱していると、さっきまでズボンを脱ぐために動かしていた手が無くなってしまっていた。  何が起きているのかわからず、悲鳴を上げそうになるが、なぜか声が出ない。そもそも声をどうやって出していたのかがわからない。  そんなことにまたもや混乱していると、気づけば腕と下半身までもが無くなっていた。  それに加えて、先ほどからやたらと煙ったい。よく体を見渡せば、体のあちこちが煙を上げながら消えていく。いや、蒸発している。  わけのわからないこの状況に、先ほどまでは混乱していたに俺も、なぜか今は冷静になっていた。    そしてついに、自分のすべてが蒸発したかと思うと、俺は空に浮いて、街を見下ろしていた。  変わらぬ暑さに汗が止まらず、街に向かって恐ろしいほどの量の汗がまるで雨のように降っていく。  汗を拭こうにも、タオルがなくなっている。そもそも腕を動かすことができない。  俺は自分の降らせる汗にまみれていく街を見ながら、自分はきっと雨雲となり、雨を降らせているのだ、と今の状況を不思議と把握し、納得していた。  その後も汗を流していると、なぜか意識がどんどんと薄れていった。  この後はどうなってしまうのだろうか。特に危機感を感じることもなく考えていると、突然降らしている汗、いや雨たちと同じように自分が急速な落下を始めた。  あまりの恐怖に体が竦む。何をどうしても落下は止まってくれない。悲鳴あげたくとも、なぜか先程と同じよう声がでない。  そして、ついに地面に激突す__ 「っああ!!」  目を冷ますと、ぐっしょりと冷や汗をかき、ベッドのシーツを両手で強く握りしめていた。  しばらくは何が起きたのかわからなかったが、冷静になると先程のことはすべて夢であったと理解し、安心した。  どうやら学校から帰ってきたあと、この季節にも関わらず冷房もつけずに寝てしまったようだ。  夢の中であれだけ苦しかったのも納得である。  外を見れば、帰ってくる途中は晴れていたにもかかわらず、今は大雨が降っている。  俺は夕立で降る雨粒たちも、やっぱり空から落ちるのは怖いのかななどと考えながら、シャワーを浴びるため風呂場へ向かった。  
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