雨女と晴れ男の恋

5/12
前へ
/12ページ
次へ
 声をかけてもらったのはありがたい、でも私が近づいたらあそこも雨が降ってしまう。そう思ったら動けなかった。 「兄貴」 「おお雪斗。あの子、お前の知り合い?」 「ああ、あれが立木だよ。龍神立木」 「女の子にあれとか言うな。ごめんね、立木さん」 「い、え」 「龍神がついてる、なんてかっこいいね。俺にも何かついてるのかな?」  かっこいい、なんて初めて言われた。思わずぱっと顔を上げると片科のお兄さんも微笑み返してくれた。  初めて会ったはずなのに、あの片科の兄なのに、なぜかいちいち胸がざわつく、ときめく。  そしてその気持ちの高ぶりには龍神も反応したらしい。雲の色がどんどん濃くなっていった。 「美雨」 「!」 「ひどくなりそうだからそろそろ帰ろう」 「あ……うん」  透子に声をかけられて我に返る。片科たちへの挨拶もそこそこに透子と共に学校を後にした。 ○  そんな淡い、恋とも言えないような出来事を夕立の度に思い出す。高校を卒業して早7年たった今でもだ。  社会人になっても相変わらず雨女っぷりは健在で、今も取引先に向かう途中の駅で雨足が弱まるのを待っている。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加