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声をかけてもらったのはありがたい、でも私が近づいたらあそこも雨が降ってしまう。そう思ったら動けなかった。
「兄貴」
「おお雪斗。あの子、お前の知り合い?」
「ああ、あれが立木だよ。龍神立木」
「女の子にあれとか言うな。ごめんね、立木さん」
「い、え」
「龍神がついてる、なんてかっこいいね。俺にも何かついてるのかな?」
かっこいい、なんて初めて言われた。思わずぱっと顔を上げると片科のお兄さんも微笑み返してくれた。
初めて会ったはずなのに、あの片科の兄なのに、なぜかいちいち胸がざわつく、ときめく。
そしてその気持ちの高ぶりには龍神も反応したらしい。雲の色がどんどん濃くなっていった。
「美雨」
「!」
「ひどくなりそうだからそろそろ帰ろう」
「あ……うん」
透子に声をかけられて我に返る。片科たちへの挨拶もそこそこに透子と共に学校を後にした。
○
そんな淡い、恋とも言えないような出来事を夕立の度に思い出す。高校を卒業して早7年たった今でもだ。
社会人になっても相変わらず雨女っぷりは健在で、今も取引先に向かう途中の駅で雨足が弱まるのを待っている。
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