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東洋一の繁華街と謳われた新宿歌舞伎町も今は昔。俺の学生時代の頃に比べれば、ずいぶんと人は減った。まあ、二十年以上も経てば、町が変わるのは当たり前だし、流行り廃りもある。昔は、遊ぶ町と言えば新宿だったが、大学生の娘に言わせれば新宿は『おじさんの町』なんだそうだ。
だから、老若男女問わず集まっているこんなやじ馬連中を見ていると、どこから沸いて出てきたのか不思議に思っちまう。
歌舞伎町の入り口、雑居ビルとカラオケボックスの間にぽっかりと口を開けたような暗く狭いビルとビルの狭間。そこが現場だった。
「道開けて、警察です!」
集まっているやじ馬連中に対して栗田は、半ば絶叫気味にやじ馬を掻き分けてゆく。その後ろを、俺は歩いて行く。
「また、自殺らしいよ」
「ホント、呪われてるよねぇ」
「死神だよ、死神……」
やじ馬達の間では、そんな言葉が囁かれ、その片手には携帯電話が握られている。カメラを現場に向けているのだ。自殺現場なんぞ撮って何が面白いんだ。
本当に世も末だ……
俺は、うつむき加減に大きな溜め息を吐いた。
そんな時だった。ふと、視線を向けた先で俺の目は奪われた。
――子供? 朝の歌舞伎町に?
五歳くらいだろうか。小さな女の子がやじ馬の中に紛れ込んでいたのだ。日曜日でも朝の歌舞伎町であんな幼い子を見る事などまず無いのに……
ましてや今日は月曜日だ。
見る限りでは、近くに親の姿も無かった。
「お嬢――」
迷子かと思い、呼びかけようとした瞬間、まるで俺の視線に気付いたように、その子は俺に振り返った。
長い髪に、つぶらな瞳。
気になったのが、その表情。無表情なんてものじゃない。まるでデスマスク……
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