第一章 峰山修司

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 ブルーシートの盛り上がった部分を見詰める俺達に向かい、加山さんは淡々と現場鑑識の結果を口にし始めた。 「所持していた財布の中に入っていた免許証から、遺体の氏名は小山京子で間違いはなさそうです。性別女性、年齢は二十八歳、現住所は新宿区荒木町○―○―○。この雑居ビルの非常階段からビルとビルの間へと飛び降り、そこのエアコンの室外機に激突し、死亡したと思われます」  カラオケボックスが入っているビルの壁に設置されたエアコンの室外機の角は、ベッコリとへこんでいた。その下では、青いポリバケツが中のゴミを散乱させている所を見ると、室外機に激突した後、体はポリバケツに激突し、中のゴミを撒き散らしたのだろう。 「着衣などに乱れは無く、争った形跡もありません」  やっぱりか。こんな、人間一人がやっと通れるくらいの狭いビルの隙間に向かって、飛び降り自殺したっていうのか?  また、所構わずだ……  続いて、牧さんが口を開いた。 「遺体発見時刻は午前六時四十七分。発見したのは巡回中の警察官だ。頭をこのビルとビルの隙間に向けて仰向けに倒れこんでいる所を、酔っぱらいかと思い声を掛けようとし発見。すぐに救急車が呼ばれ、救急隊員が死亡を確認した」  そこまで聞き終わった俺は、ブルーシートの前にしゃがみ、合掌する。それから、シートをほんの少しだけ開け、中を覗いた。  派手目の化粧に、蛍光色のキャミソールと羽織ったピンクのジャケット。 どう見たって会社勤めには見えない。昨夜に日曜出勤していた風俗嬢ってところか。  日曜の夜なら人気も少ない。目撃者はいないだろう。飛び降りた時は大きな物音もしただろうが、この町だったら珍しいものでもない。誰もが酔っぱらいが騒いでいるくらいにしか思わない。  誰に気付かれる事も無く、ここでひっそりと死んでいたのかと思うと、無性にやりきれなくなる。  ――なんで死んだ…?  俺は、小さく舌打ちした。
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