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直接地面に激突しなかった分、頭部や顔面には、さほど損傷は見られなかった。
――さて、死に顔は……
「どっちかと言うと、笑ってるか……」
そんな呟きを漏らした俺に牧さんが、
「そうだな……」
とだけ、陰鬱な目で答えた。
加山さんは、すでに部下達に指示を出してブルーシートのカーテンを張らせ、遺体の回収作業に入ろうとしている。そして栗田は、さっきまで淡白な意見を語っていた割には、遺体を目の前に辛そうな表情を作っていた。
「どうした? さっきまでとは随分と様子が違うな」
「いや……自分も、この事件に何も感じていない訳じゃないんで……」
俺は立ち上がり、手の甲で栗田の胸を軽く叩いた。
「それでいいんだよ。こういう事に不感症になっちまったら、刑事としても人間としても終わりだ」
「はい……」
「さあ、署に戻って遺体の遺族探しだ。早いところ、この遺体を身内に会わせてやろう」
栗田にそう告げて、俺はブルーシートの下で笑って死んでいる自殺体に踵を返した。
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