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『新宿連続自殺事件』
当然、このふざけた事件名は正式なものじゃない。現在、この町で起こっている妙な事件に対し、週刊誌が名付けたものだ。それが、いつの間にか世間に定着してしまった。
最初の事件は、今から二ヶ月前、九月の中頃だった。
午後十時、新宿三丁目の飲食店街の道端で、駐車場内からフラフラと現れた三十代の板前の男が、手に持っていた刺身包丁で突然、自分の喉を刺し貫いて絶命した。始めは殺しかと思ったが、多数の目撃証言から自殺は疑いようがなかった。手にしていた刺身包丁は、男が勤める店の姉妹店の板長の物で、男はその板長から「忘れたから持ってきてくれ」という電話を受け、届けに行く途中だったようだ。
その五日後、午前一時四十分。今度は、ゴールデン街で五十代のスナック経営者の女が、店にあった食用油の一斗缶を頭から被り、自ら火をつけて焼身自殺。幸い、火は直ぐに消し止められたが、女は全身に重度の火傷を負い、救急搬送された病院で間もなく死亡した。
それから一週間後、今度は集団自殺だった。午後九時五十分。新宿駅南口にあるパチンコ店の五階から、いずれも二十代前半の男三人が次々に飛び降りて死亡した。目撃証言によると、男三人は一度退店したが、突然物凄い勢いで店に戻り、店員の制止を振り切って店の非常用窓をこじ開けて飛び降りたらしい。
この三件が、九月中に起こった自殺事件だ。
その後、十月には六件、今月は、第二週にしてすでに八件。その間隔は、段々と短くなっていっている。
共通点はいくつかあった。
まず、歌舞伎町を中心に起きている事。それと遺書が無い。あとは、必ず夜の屋外で起きている。雨の日には起きた事が無い、などだ。
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