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反射的にギュッと瞑った瞳をゆっくり開く。彼が事切れる瞬間を見たくなくて、身体ごと逸らしたのだから、視界に映るのは藍の空と同じ色の壁のみだ。
見たくない、なんて。彼がどうなるか薄々察していたのにな。
今更じくじくと存在を主張し始める良心。
仕方がないだろう…!俺が何をしたって、きっと彼は助からなかった。それに、俺だって危ない。そうだ、これは仕方ない。仕方ないんだ。
誰に言うわけでもなく、心の中で只管言い訳を続ける。
「ちゃんと死んだかな?こう見えて僕ってぇ、結構心配性なんだよねー!」
心配の"し"の字も感じぬような声音と共に水気の混じった肉を裂く音が耳が拾う。
既に死臭放つ身体を更に傷付ける理由、それは、
「よぉしよし、ちゃんと死んでるね?死亡確認完了!は〜〜〜これで安心だね!」
たったそれだけなのだ。
彼の表情は分からない。その言葉の通り心から安堵したようなものなのか、若しくはそれとは程遠いものなのか。何方にせよ彼が狂っているということは確かだ。
「今日は嬉しかったことがたーくさんあって、僕、満足!だからこんな状況でも〜?お散歩に行っちゃう〜!」
足音が遠のいて、やがて、何も聞こえなくなった。人の気配もしない。
行った、のか…?
容赦なくズタズタに引き裂いた死体を放置して?
処理は?凶器は?警察は?
徐々に平静を取り戻し様々な疑問を抱き始める。だがゆっくり考える暇も無い。
俺はここから出てやるべきことがある。記憶を、捜さないといけない。
まるで地に張り付いたかの如く重たい足を踏み出して。倉庫の扉を閉める時ですら、散った命に目を向けることはなかった。
しかしそれが今後の己を大きく左右するなどと、誰が気付けたのだろうか。
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