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藁にもすがる思いで
私(佐藤さおり)は追い詰められていた。仕事からも、家庭からも。なんでこんなことになってしまったのか。なんで私ばかり負担しなければいけないのか。こんな悩みは世間一般あるあるなのかもしれない。
唯一今の私が安らげる場所はインターネットの世界だ。見ず知らずの誰かとの交流。見ず知らずの誰かと協力してクリアするオンラインゲーム。
ああ、なんて内気なのか。外で友人知人とストレス解消に出かけるなんてことは久しくない。家庭に縛るのは、自分の連れ添い。仕事と家庭の往復の毎日。
それはともかくとして、私が必要最低限しか外に出かけることがなくなったのは何かの視線を感じるからだ。いつも何かに見られている。背後にはいつも何かの気配を感じる。
私はとうとう頭がおかしくなってしまったのか?
幻覚、幻聴、気配、目に映る、五感に感じる全てのものが敵意を剥き出しにしているようにさえ思える。
どこか心が病んでいるのかと思い、その類いの病院へ行ってみた。しかし、医者は数分間私の話を聞いたあと精神薬を処方してくれただけだった。理由はストレスと・・・
精神薬を飲んでもいつも何かに見られている。背後にはいつも何かの気配を感じる感覚は治らなかった。むしろ、逆に眠れなくなっていた。
それを医者に話すと今度は睡眠導入剤を処方された。薬ばかり増える。根本的な問題は何も解決してはいない。
しばらくして、病院へ行くのも薬を飲むのも止めた。
帰宅して家事を終えたあと、いつものようにオンラインゲームをして、ネットサーフィンで眠れない夜を過ごしていた。
ふと、あるホームページのタイトルに目が止まる。
“病院へ行っても良くならない、原因不明の症状に悩まされている方へ。もしかしたらそれは霊的なものが原因かもしれません。一度下記の連絡先へお電話下さい。”
今にして思えば、その謳(うた)い文句は悪徳商法の中のひとつ、霊感商法でぼったくっている組織だと分かる。
しかし当時の私は、そんなことさえ判断がつかないくらい心が疲弊していた。
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