御守りを身に付けて

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御守りを身に付けて

◯万◯千円もする御守りを購入するとY団体のIさんに伝えてから3~4日後、御守りは郵送で届いた。 開封すると入っていたものは、神社で売られている一番小さな御守り布袋に似た大きさの、縦長で首からぶら下げられるような感じで細長い刺繍(ししゅう)糸太さの紐付き巾着御守りだった。 御守りの中は木の欠片がビニール袋に包まれていた。 そして説明書のような紙が数枚同封してあった。 内容は、この御守りが届いたら下記の窓口担当者の携帯番号まで連絡を入れるように。詳しく事は電話で説明するとのことだった。 注意事項として、御守りは決して濡らさないこと。水で濡れたら御守りの効力は失われますとも書いてあった。 つまり水に濡らしたら◯万◯千円の御守りをもう一度購入しなければならないということだ。 そもそも御守りというものは水に濡れたら効力が失われるものだろうか。 この時の私は何も疑うことなく、ただ早く原因不明の症状から逃れたい一心で説明書の指示通り窓口担当者へ連絡をした。 電話に出たのはY団体のIさんだった。一番最初に新規顧客を対応した人が担当になるものなのか?その事をIさんに聞くと、会員(新規顧客)の担当者はY団体の大(おお)先生(尊師)が決めたとのこと。尊師と呼びたいけれどカルト宗教団体オウム真理教と同じ呼び方になるので大先生と呼んでるのだとか。 そんな小さな質問にもIさんは詳しく話してくれた。 本題の御守りについてだが、郵送で届いた状態の御守りには御神体が入っておらず電話の向こうから遠隔で御神体を入れるという。 何も御神体を入れた状態で郵送しても良いのでは?と聞いてみるとこの御守りはあなた専用のものなので、とのことだった。何だかよく分からないけれどIさんがそう言うのならそうなのだろう。 頭の片隅で何かがしっくりこないと思いながらIさんの指示に従った。 無事に御神体を御守りに入れる作業は終了した。 御守りの効力はいつぐらいから効き始めるのか質問すると、それは個人差だと返答された。 個人差と言われても分からないので具体的に教えて欲しいと言うと、早い人だと3日後、長い人だと1ヶ月くらいだと教えてくれた。 Iさんは続けてこうも言っていた。 “あなた専用に御守りは合わせましたが何か体調がすぐれない時は早め連絡して下さい。調整しますと” 私専用(オーダーメイド)。この心地よい響きに特別扱いをされているような錯覚を感じてしまう。 電話を切った後、暫く心地よい気分になっていたのは言うまでもない。 そんな心地よい気分は3日後、あっさり消し飛んだ。 夜寝ていると金縛りに遭った。胸に重たいものが乗っているような感覚があった。自力で何とか体を動かし金縛りを解く。しかしまた眠ろうとすると金縛りに遭ってしまう。 今までも時々聞こえていた幻聴幻覚が酷くなっていた。何かに見られているような視線、気配も強く感じるようになっていた。 おかしい。 御守りを身に付けているのに原因不明の症状は良くなるどころか酷くなる一方だ。 どうなっているんだろう。 もしかしてこの御守りのせい・・・? 私は家族の居ない時間帯にY団体のIさんに電話をかけ、御守りを身に付けてから原因不明の症状が酷くなったことを伝えた。 Iさんは数分間の沈黙の後こう言った。 まれにあなたのように霊にとり憑かれやすい人は逆に本来の症状が酷くなってしまうことがあります。 御守りを購入したのは無駄だったのか、どうすればいいのかと私は尋ねた。 するとIさんは、自宅をお祓いしなければ原因不明の症状は良くならないでしょうと答えた。 自宅のお祓い?神社でする地鎮祭みたいなものなのだろうか。お金はどれくらいかかるのだろう。決して安くはないと電話の向こうのIさんからそんな雰囲気を感じ取る。 私は静かな口調で自宅のお祓い代はいくらするのか聞いた。 自宅のお祓い料金は◯◯万円。その料金は中古車が買える金額だった。 高い!高すぎる。神社のお祓い代だってそんなにしないのに。共働きの家庭でそんな大金すぐに用意出来る訳がない。 私はIさんに、そんな大金はすぐには用意出来ないと、経済的に難しいと話した。 するとIさんはそれまでの穏やかな口調から一変、激しく大きな声でこう言った。 あなたの命に関わることなんですよ!それで命が救われるなら安いじゃないですか!私があなたの立場だったら借金してでも自宅をお祓いしますけどね! Iさんの突然の豹変ぶりに私は電話の向こうで萎縮してしまった。 数分間の沈黙の後、Iさんは、続けてこうも言ってきた。 カードローンならパートアルバイトの人に30万円まで貸してくれますよ。それを複数社借りたらいいんです。それでは自宅のお祓い代が用意出来たら連絡をお待ちしてます。 そう言って電話は一方的に切られた。 酷く見捨てられた気持ちになった。藁にもすがる思いで勇気を振り絞ってY団体に電話したのに。なんでこんな仕打ちを受けなければいけないのか。 谷底へ突き落とされたような気持ちってきっとこういう気持ちなのだろう。目の前が真っ暗だった。 命はお金で買えるとでも言いたいのか。 悲しい。苦しい。辛い。 この苦しい気持ちから早く逃れたい。 この気持ちから逃れるには、やっぱり借金をして・・・。 あれ、何だか頭が痛い。上手く考えられない。 そう、既に私はY団体のマインドコントロール(洗脳)による催眠を用いた悪徳商法の餌食になりつつあったのだった。
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