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 「紗代、ねぇ紗代。聞いてるの?」 「え、あ、うん、聞いてるよ」  友人の香菜だ。よくお昼を一緒に食べる仲で、今日も机を引っ付けて一緒に弁当を食べている。 「もう、すぐ上の空になるんだから。全然聞いてないじゃん」 「ごめん、ごめん。何のこと?」 「紗代は最近気になる人いるの?」 「気になる人ね……」  またこの手の質問か。恋愛脳だよね、まったく。 「まあ、紗代は選びたい放題かもしれないけどね。かわいい顔してるのに遅刻魔で、いつもボーっとして何考えているか分からないミステリアス女子。完璧なキャラだよ。クラスの男子どもが放っておくわけないよね」 「また、くだらないこと想像してるの?妄想もそこまで広がるともはや芸術だね」 「で、どうなの?実際のところは」  しつこいなぁ、全く。いないよ、そんな人……。 「別にいないよ、全然。うん、全然いない。そんな人───」  そう言いながら手元の弁当から視線を離すと、机の横にひっかけてある自分のリュックが目に入った。 「紗代、どうしたん?」 「うぅん、何でもない……」 「なになに?クラスのマドンナに熱愛報道?」 「本当に何でもないから───」  香菜の執拗な追及を振り切ろうと思っていたその時、チャイムが鳴った。予鈴だ。あと五分で午後の授業が始まる。 「私を問い詰めても何も吐かないよ、香菜。今、気になる人はいないから」  どこか自分に言い聞かせるようにそう言って、食べかけの弁当に蓋をした。
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