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授業は午後もあったが、既に七月も下旬に差し掛かっており、来週には夏季休暇が始まるため、午後の授業は早めに切り上げられ2時過ぎには放課となった。
放課後になり、部活に所属している生徒たちは一目散に散っていった。
部活に所属していない、いわゆる帰宅部所属の自分はやることも特に無かったので、同じく帰宅部である香菜と教室で雑談をしていた。
これといった話題があったわけではないが、一時間程度は会話が続き、気付けば四時手前になっていた。あと三十分もすれば部活も終わる。七月ということもあり、夕方ではあるものの空は青く、日差しが強い。
「そういえば、紗代。帰らなくてもいいの?結構もう遅い時間だよ?」
香菜はそう言っていつまでも学校に残っている私を心配してきた。
「大丈夫だよ。母親も夜まで仕事だし、家に帰っても一人だからやることないよ」
「紗代はお母さんと二人暮らしだもんね……。でも、なら尚更心配するんじゃない?」
「いやいや、こうやって香菜と一緒に居る方が安心だって言ってたよ」
我ながら嘘くさい。放課後に香菜と居残りしておしゃべりすることなんてほとんどない。香菜にはばれてそう……。
「まあ、ならいいけど……」
やっぱりどこか腑に落ちてなさそう。
「でも、私はそろそろ帰るよ。紗代、一緒に帰る?」
「ごめん、私はもう少し残るわ」
「何か用事?」
やっぱり聞かれた。
「用事って程じゃないんだけど……」
「なんなの?」
はぁ、言わないといけない?でも、言わないのは余計香菜を刺激しそう……。
「傘……」
「かさ?」
「クラスの牧野君ってわかるよね?野球部の。この前、遅刻しそうであわてて傘を持ってくるのを忘れたときに、貸してもらったの。別にいいって言ったんだけど、自分は部活してから帰るから気にするなって……」
「あ~、あの傘忘れたって私に紗代が訴えていた時ね!」
「そうそう」
「でも、あれって六月くらいだったよね。まだ返してなかったの?」
やっぱ返すの遅いよね。
「中々返す機会がなくて……。最近ずっと晴れだったし……」
「別に折り畳み傘なんだから、わざわざ雨の日を待たなくても次の日にでも返せばよかったのに」
「そうなんだけどね……」
マジレスされた……。
「でも、わざわざ直接返さなくても下駄箱に入れて帰ればいいじゃん。さっさと入れて私と帰ろうよ」
「いや、だけど借りっぱなしなのに何も言わずに返すのはちょっと……。それに、今日は予報で夕立が降りそうだから直接返さないと」
「確かに、降り出しそうだよね~」
いつの間にか空全体が雲で覆われており、灰色一色だ。でもまだ降らない。
「まあ、あと少しで部活も終わるし、紗代が傘返すの待っとくよ。自分の傘も持ってきてるんでしょ?」
ダメ、どんどん状況が悪くなってきてる。どうしよう……。
「そんな、悪いよ!香菜にそこまで付き合わせちゃ、申し訳ないよ。それに、牧野君だっていつ帰るか分からないし、今日会えないかもしれないし───」
「そう?野球部の部室は近くだし大丈夫でしょ?」
もう!なんでいつも恋愛ネタには首を突っ込んでくるのに、肝心な時はこんな調子なの!
「とにかく大丈夫だから!」
思わず大きな声が出てしまった。
「ご、ごめん、突然。驚いたよね?」
最悪。香菜、機嫌悪くしたかな……?
「あ、いや。詮索しすぎたね。ごめん。紗代にも言えない事情とかあるよね」
「ごめん……」
「いいよ、いいよ。じゃあ、また明日ね」
香菜はそう言うと手を軽く振って教室から出ていった。
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