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7月18日
身体がだるい。雨に濡れたせいで風邪気味なのかもしれない。
プールを見学していたら、馬鹿な男子が「生理?」なんて聞いてきた。そいつに平手打ちを食らわせたら、なぜか近くにいた朝日奈がおろおろしていた。
下校時間になって、朝日奈が傘を返しに来た。
昇降口を出ようとして、わたしは足を止めた。ついさっきまで晴れていた空へ、黒い雲が押し寄せてきたのだ。
たちまち雨が降り出した。
朝日奈がなにか言いたげにわたしを見る。
「今日はわたしが使うから」
そもそもこれはわたしのものなのだから、朝日奈に断りを入れるまでもない、正当な権利だ。
「オレ、夏休み入ってすぐ試合があるんだ。風邪引いたら大変だからさ」
わたしはため息をつき、朝日奈に傘を押しつける。
――と、朝日奈がわたしの腕を取った。
突然のことに心臓が跳ね上がる。
「なんでそんな意地張るんだよ。オレのこと嫌いなの?」
「……別に、そうじゃないけど」
振り切って駆け出すのも面倒になって、わたしは朝日奈と連れ立って歩いた。
もし誰かになにか言われても、もうすぐ夏休みだ。それだけの日にちが空けば噂は沈静化する――と、思いたい。
ぱらぱらと雨粒が傘を叩く音がする。
「榎本さんて、雷みたいだよね」
「……褒めてるの? それとも貶してる?」
雷みたい、なんて言われて嬉しい人はいるのだろうか。それとも、みんなに嫌われて怖がられてるよ、と暗に伝えたいのだろうか?
「空に走る音と光。花火みたいで、綺麗じゃない?」
それに、と朝日奈が言う。
「オレは好きだよ」
「雷が?」
「うん」
変わってるな、と思ったが、さすがにそれは言わなかった。
「朝日奈……くんは、太陽みたいだね」
「それって褒めてくれてる?」
「たぶんね」
太陽と雷は相容れない。そういうつもりでわたしは言ったのだけど、朝日奈は気づいているだろうか。
雷鳴が聞こえる。
黒い雲の切れ間から、少しの晴れ間が見えた。
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