1438人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
──その夜は嫌な夢を見た。
夢の中でキイチは彼女に自分にしたのと同じことをしていた。
優しく抱いてキスをして、何度もその気にさせるような甘い言葉を耳元で囁やいた。
自分と唯一違ったのはキイチが彼女の首筋を噛んだことだ──。
「っ……!!」
うなされて目覚めた真柴の身体は嫌な汗でじっとりと濡れていた。張り付いた前髪をかきあげゆっくりと上半身を起こす。
視界に入った時計はまだ真夜中を差している──。
寝汗で濡れたパジャマが気持ち悪くて真柴はバスルームに向かう。
脱衣所の洗面台で鏡に映る疲れた顔をした自分と目が合った。
「誰にでも手を出す……か」
思わず失笑が込み上げる。
──俺はキイチのことなんて何も知らなかったのに……何を知ったつもりでいたんだろう。
キイチのことだからきっと相手がどんなでも気がつくし、賢いから気遣いも出来る。キイチにはそれくらい朝飯前なんだ──。
洗濯機に着ていたものを全て投げ入れて乱暴にバスルームのドアを閉めた。
冷たいシャワーに打たれながら真柴は肩を震わせながらペタリと床に座り込んだ。
「やっぱ俺は大馬鹿Ωだ──」
最初のコメントを投稿しよう!