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簡易スタジオでデータ登録用の写真を何枚か撮影し、身体の採寸を終えたキイチは夏目に次のアポを強引に取らされその日はそのまま解放された。
受付まで真柴が付き添い、ビルの表まで一緒に出た。
「今日はありがとう。まだしばらく続くけどよろしくね。学業に支障が出そうなら言って」
「──ご飯行こうよ、真柴」
「俺はまだ仕事が残ってるから今日はだめ。あと急に家に来るのもなしにして。俺にだって都合がある」
「じゃあ先に電話する──」
「うん。そうして──」
真柴の右手をギュッと握りキイチは物欲しげな目を残して「バイバイ」と背を向けた。
その背中を見送ることなく真柴は足早に会社へ戻った。振り返るキイチを今は見たくなかったからだ──。
何度目の着信かわからない──。
キイチの電話をもう何度も気付かないふりしている。
結局奥秋には未だ何も話せていない──自分自身上手い言い訳が見つからないと言った方が正しいだろう。
夏目の抱える何本かのCMの仕事に従事しているとその忙しさのお陰で少しだけキイチのことを忘れることができた──。
キイチが次に撮影に来る日にわざと真柴は有給をぶつけたが、夏目は敢えて何も言わなかった──。
予定のない有給をソファの上に寝そべってぼんやりと過ごす──。
映画を見る気分でもなくて何分か流すだけ流してすぐに画面を消した。
天井を仰ぎながら真柴は深くため息をついた。
「こんなズル休みみたいな有給──奥秋だったら絶対取れないんだろうな……結局俺は都合よくΩにあぐらをかいてる……ホント……最低だ」
Ωにはどの会社にも義務制度としてヒート休暇があるが、真柴含め大抵のΩは抑制剤を使ってヒートをなくし他の社員同様出社していた。制度といえど休めば少なからず周りから嫌味を言われ、会社にいづらくなるのが現状だ。世間一般的にもΩの離職率は他の二つの性とは比べ物にならない。
無理矢理目を瞑ると少しずつ眠気が訪れ真柴は抵抗することなくそのまま眠りについた──。
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