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ep.2
トイレの手洗い場で汗まみれになった顔を洗い、濡れたままの顔を鏡で見た──
「ひどい顔……」
疲れ切って、不満に満ち溢れてる最悪の顔──。
重い足でメディア部に戻るとカメラをバッグから出している夏目の姿があった。
恐る恐る夏目のそばに近付き、声を掛ける。
「夏目さん……さっきは、その──」
「お前は一体なにものなの?」
夏目は呆れると言うより子を叱る親のように真っ直ぐと真柴を見ていた。
「俺はね、何もあのガキに体を売れとかヘコヘコ頭を下げろとか言ってんじゃないんだよ、あのガキとコミュニケーションを図れって言ってんの」
言葉をなくして俯いている真柴の頭をポンと軽く叩くと夏目は自分の椅子に腰掛けた。
「傘って、なんの話」
「あ……、あの子が俺が傘なくて困ってる時に……自分のを譲ってくれて……」
「嬉しかったんだろ? だから自然と礼も言えた。それと同じなんだよ真柴。俺たちの仕事は自分からシャッター閉めちまったら何にも得る事は出来ないんだ。自然に相手に興味を持って、自然に会話する。ガキの生意気なんてあの歳の頃の標準装備みたいなもんだろ。どうしてもそれに腹が立つなら思い切って同じ目線でキレちまえよ。黙っちまうよりよっぽど潔い良い」
「──すみません、でした……」
夏目の言葉はその辺の上司のそれより真柴にズッシリと重く感じた。今までは誰も真柴をそんなふうに叱ってくれなかったからだ──。
会社は期待していない奴には叱りもしない──
だけど夏目さんは──
「謝るならあのガキにな。礼言っといて逃げ出しちまったんだから、次に会えたらきちんと謝っとけよ」
「──はい……」
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