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お風呂上がりのキイチからは真柴と同じシャンプーの香りがした。大きな図体のくせして、耳を舐められるのが本当は弱いだとか、真柴だけが知る夫の秘密。
意地悪くそこばかり責めるとキイチが拗ね始めた。
向かい合って座っていた真柴の身体を組み敷いて、同じように耳朶に噛み付いて反撃をするが、真柴はくすぐったいと笑うだけだった。
首筋から鎖骨まで舌を這わせて真柴の香りを感じると、それだけでキイチは胸が熱くなる。
胸の尖りに唇が触れたかけた瞬間「いぁっ!」と真柴が変な声を出した。思わずキイチが顔をあげると非常に気まずそうな顔の真柴と目が合った。
「──やっぱり痛いの?」
「え……と、あー、うー、ちょっと……」
「病院行った?」
本気で心配そうにキイチが言うものだから真柴の良心がズキズキと痛んだ。
「そんな大袈裟なアレじゃないから」
「ダメだよ、大弥のことも大事だけど、真柴も自分のこと大事にしてよ。我慢しちゃだめだよ、うちの母ちゃんとか全然使ってくれていいからさ」
もう、お願いだから今はその人の話をしないでくださいと真柴は脳内で土下座した。
「違うんだって、これは本当に……」
ごにょごにょと最近の真柴にしては珍しく歯切れが悪い。キイチの心配そうに揺れる瞳がもう辛くて見ていられない。
「大弥が……強く、す……吸うから……痛く、て……」
こどもを持つ母とは思えないくらい、うぶな声色で真柴は真っ赤になってそれを白状した。
少し妙な間があって、恐る恐るキイチの顔を覗くとなんの感情もないロボットみたいになっていて、真柴は慌てて夫の肩を揺らしながら何度も名前を呼んだ。
「ナニソレ……」と、ロボットは棒読みで小さく口にする。
「えっ、なに、なに?」
キイチから音としてようやく認識できるレベルでのその声に、真柴は極力夫の顔の近くに耳を寄せた。
「何それ! めっちゃ興奮するじゃん!!!」
「わああっ、すげぇっ、やっぱコイツ馬鹿だぁ!!!」
これ以上ないくらいの頭の悪い発言と共に正面から強く抱き締められて、真柴はもう抵抗する気にもならなくて、脱力したまま口から魂が出そうになっていた。
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