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襲津彦の見立てによりチヌは葛城家を出、法師見習いとして大神社(おおみわのやしろ)の大巫女サジに仕えることとなった。ほんらい法師と巫女とは別の職業なのだが、ここ大神社ではサジ大巫女は法師の長も兼ねていた。
法術はこの時代には重要な役割を持っており、優秀な法師が育たないと一族の存亡にまで関わってくる。仕事はたくさんある。巫女に代わって社を守ったり、法陣を浄めたり、戦争になればからくり巨兵を起動するなど重要なものばかりだ。
一流の法師であればいくつもの仕事を一人でこなせるが、たいていの法師はひとつのことに集中して法術をかける。この職業は現代の音楽家や芸術家などと同じで努力だけでは一流にはなれない。天性の才が必要なのだ。襲津彦の見立てではチヌにはそれがあるというのだが、はたしてどうであろうか。
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「姉様たち、朝じゃ」
二人並んで寝ているトガとヤマダイの頭をゴツンゴツンと何かが叩いている。
「んー、わかった、わかった」
何が頭を叩いているのかと寝ぼけマナコの焦点を合わせると、どんと跳ね起きて、
「チヌ、お前はまた、何ということを」
チヌが尻をつけながら足の裏で蹴っていたのだ。
「姉様が悪いのじゃ。ほれ、もうコオイたちは出ていったよ」
チヌは立ち上がって、まだうつらうつらしているヤマダイの身体を抱き起こした。
「お前、人を起こすのにも違うやり方があろう。そない汚い足の裏で姉の頭をどつくなど・・・」
トガは十六歳、ヤマダイは十五歳、もうひとりすでに起きているのは十三歳のコギ。法術見習いとして、チヌと寝起きを共にする仲間である。四人はいつもの朝より少し遅れて宿舎を出た。同じ宿舎で暮らすコオイら巫女の見習いたちが宮の脇殿の中を清掃しているのが見えた。法術見習いたちも庭代に到着するとすぐに清掃を始めた。
社は常に清浄、清らかでケガレがあってはならぬ。チヌはサジの言葉を思い浮かべている。
「代々の神は清らかな場所がお好きなのだ」とサジ様は仰った。社は民の拠り所であると同時に神様の依り代でもあるのだ。
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