2話

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 もう少し優しい言い方もあっただろうか。  でも今はそんなことを考える余裕もないほどに疲労困憊(こんぱい)だった。  母に「ただいま」とだけ言って、重い足を自室に向ける。ベッドに潜り込むと、私は活動限界を迎えた。  かなり深く眠っていたようで、私は何件もの着信音に気が付かなかった。  目を覚ますと、お世話になっている交番からの着信履歴とメッセージ内容が空中ディスプレイに映し出される。  やはり、母を保護しているという要件だった。 「またご迷惑おかけして、申し訳ありません」  交番に到着すると、不機嫌そうな面持ちの母がいた。  お巡りさんの仕事を増やしておいて、その態度は如何なものか。  しかし相変わらずここの交番は親切で、「いいんですよ」と笑顔で対応してくれる。  まぁ、そうプログラムされているので、当然といえば当然なのだが。  お巡りさんはにこやかな表情を崩さずに続ける。 「娘さんの電話が繋がらなかったので、お家まで送ろうとしたんですけど、帰りたがらなくて……。『アキちゃんを探しに行く』って一点張りなんです」  やはり原因はアキだったか。  確かに苛立った勢いで解雇してしまったのは心が痛い。  でもいずれはこうなっていた。遅いか早いかの問題だ。 「お母さん、アキさんは自分の家に帰ったのよ。また明日遊びに来るんじゃない? だから今日はもう帰ろう」  どうにか母を説得させなければ。  早く家に帰って、やるべきことを片付けてしまいたい。 「……明日、アキちゃんに会えるの?」 「うん、会えるわよ」  母が安心したような、期待に満ちたような表情になる。  どうやら家に帰る気になったみたいだ。  お巡りさんにお礼を言って、ふたりで歩いて家に向かう。  母が認知症になってから、私は母にウソをつくことが多くなった。  仕方がない。  物事を円滑に進めるために()()()()()なんだ。決して、傷つけたり貶める意図はない。  だけど、良心が痛む。  帰りの道中、明日からどうやってアキのことを誤魔化そうかと思いあぐねていると 「最近ね、鎌倉にいた頃をよく思い出すのよ」  と、母がポツリと呟いた。
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