3話

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 映像は続く。 「アキちゃんといると、子どもの頃を思い出すわ」  「もしかして、鎌倉にいた時の?」 「あら、前に言ったかしら。そうよ、鎌倉にはね、大事な友達がいたのよ」  アキはとても嬉しそうに聞いている。  何回も繰り返し聞いているはずの話なのに、よくここまで興味を持って聞けるな。  まぁ、おそらくそうプログラムされているのだから、そうであれば当然か。 「その友達、アキちゃんに似てる気がする」 「そうですか? 嬉しいです」 「あなたみたいに、長い髪がとっても綺麗だったの」  母はアキを見ながら、色鉛筆でスラスラと女の子の絵を描いていく。  アキを見て描いているのか、それとも昔の記憶を呼び起こしながら描いているのか、またはその両方か……。  絵を描き終えた母は少女のような目をしながら、次の遊びを考えているようだった。 「アキちゃん、指相撲は得意?」 「指相撲ですか? 実は得意なんです。今まで誰にも負けたことないんですよ」  いい歳して指相撲に夢中になるなんて、見ているこっちが恥ずかしい。  はしゃいだせいで、スケッチブックや色鉛筆が床に散らばってしまったじゃないか。  それを拾うのが私の仕事になるとも知らずに、当の本人たちはとても楽しそうに遊んでいる。  ふと、アキの親指に、シリアルナンバーが見えた。  やはり、彼女は――     ――AIの普及により、昔は人がやっていた仕事はそのほとんどがAIに取って代わった。  タクシーの運転手も、交番のお巡りさんも、家政婦も、今は大体がアンドロイドだ。  しかし家政婦アンドロイドは家事業に特化しているため、人と細やかなコミュニケーションを取れないものが多い。  だから、最初は介護のできるアキを人間だと思い込んでいた。  親指に小さく刻まれたシリアルナンバー。  それの有無でしか人との見分けがつかないほど、今のアンドロイド産業の技術の成長は凄まじい。  私はそのシリアルナンバーを、アンドロイド検索にかけた。  すぐに写真付きの詳細ページが映し出さる。 『コミュニケーション型アンドロイド、呼称はアキ』  その下に経歴が続く。 『今から六十五年前に製造、実用化された、最も初期の世代のアンドロイドである』  当時の写真が載っている。  小学生くらいの子どもの姿だが、アキの面影はうっすらとわかる。  人間らしさは今ほどではないが、子どもに本物の人間だと認識させるくらいの精巧さではあったようだ。
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