3話

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『当時、感染症の流行によって社会性を保てなくなった子どもたちのために開発された。特徴は対人コミュニケーションに特化していること。人間の機微を感知する初の技術が搭載されている。後にこの技術はアンドロイドの常識を打ち破り――』  やはり、アキの専門は家事ではない。どおりで下手くそなわけだ。 『実用前のテスト段階で、横須賀にある開発チームの研究所から約一ヶ月もの間、逃亡していた記録がある。鎌倉で無事発見されたが、その事件により、感情に似たプログラムを組むことの危険性が示唆され――』  逃亡。  アキは、その時に母と出会った。  この一ヶ月が二人にとってかけがえのない思い出となっていたなんて、研究者たちは知り得ただろうか。 『しばらくしてコミュニケーション型アンドロイドが飽和し、必要とされなくなったのを契機に大幅な改良がなされた。当アンドロイドもアップデートにより、歯止めの効かない高齢社会のために、介護などのヘルパー業務のプログラムが加えられた』  その時にボディも大人に改良されたのか。  改良後の写真は、まさに今のアキと同じだった。 『しかしアップデートは失敗に終わる。おそらく初期に組み込まれた基盤のプログラムにより、感情に左右されやすい傾向を改善できなかったようだ。その後は民間の業者に売却され、家政婦として働いている。しかし不具合が多く報告されているため、廃棄の検討も視野に――』  私はアンドロイド検索のページを閉じ、映像の方に目線を移した。  まだ母とアキの楽しそうなやり取りは続いている。 「ねぇ、アキちゃん。今から公園に行きましょうよ」 「わぁ、いいですね」 「この前は貝殻でネックレスをあげたでしょう? 今度は、シロツメクサで花かんむりを作ってあげるわ」 「素敵! 嬉しいです!」  アキがこんなに目を輝かせているのは、そのようにプログラムされているからなんだよ、お母さん……。 「ねぇ、今すぐ行きましょう」 「あ、まずはこのリビングとキッチンを片付けないと……」 「そんなの後でいいのよ」  そう言ってアキに笑いかける母は、私の目には七才の少女にしか見えなかった。  母の小学生時代を垣間見た気分だった。  熱くなった目頭から、溢れてくるものを感じた。 
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