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雪の降らない、この街で。
広いホームでただ1人、
差し色のマフラーを付けた少年は線路を見つめていた。
マスク越しにも空気が凍ってしまう程、今日の気温は心と体に刺さってくる。
やがて少年は手提げの小さなバッグの中から小さなスマートフォンを取り出した。
電車の中でA4のルーズリーフに小説のアイデアを描き殴ることは流石に出来ないのでいつもこうして小説フォルダーにつらつらと思いついた言葉、伝えたい感情を描き並べている。
悴んだ手で何度も再入力を繰り返しているうち、段々と背後に存在感を極限まで薄めた人達が並んでいることに気がついた。
そろそろ電車が来るのだろうなと思い、あの頃に描き並べたあの時のナギサを線路越しに眺めた。
ナギサと凪海が作り出した物語「線路」。
2人はやがて再会を果たした。
それはナギサが自分の弱さを受け入れたから。
罪人には名前が与えられない物語「7月11日」。
最初にして最後の名前が与えられなかった人である「彼」は自分の生きてきた過去を見えないものにせずに確かなものとしてそれを償う事を選んだ。
そして渚とミナは再会を果たし、彼女にとってのヒーローとなった。
みんな、答えを見つけた。
冷たい風が僕を殴りつける。
風でマフラーが揺れた。
目の前に辿り着いた電車に乗り込み、右斜め前にあるその椅子に深く座り込んだ。
そうして、扉が閉まり走り出した。
線路は人の人生そのものなんだ。
その上を流れるように、流されるようにどこまでも揺られてゆく。
目的地へと向けて。
僕は今、正しい正解なんてわからないまま生きている。
でも、
確かに僕らはどこかへと向かい続けている。
それがどんな未来だったとしても、
僕が願った未来そのものとなるのだろう。
”この小説が、誰かに届きますように。”
その時ふと、君の体温を感じた。
何かに引かれていく様にして彼は窓の外を眺めた。
「あぁ、ここにも雪は降るんだね。」
叶った夢を叶えてくれた君を見ていました。
そうして彼は眠りにつきましたとさ。
おわり
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